2日ほど前から吹いていた北東の風。地元ではあいの風と呼ばれる風で、この風が吹くと、どうしても海は荒れます。
んで本日。昨日のお昼前から結構な風になり(そよそよ吹いてるくらいでもそれなりに波は立つのだけど)、どちらかといえば大荒れ。前々船頭なら番屋待機のまま解散と言い出すくらいなんだけど、現船頭はお構いなし。
と、言うことで大荒れの中出航。つーか無理でしょ、マジで。いつか死人だすぞ。
水夫連中の願いが届いたのか、流石の船頭も漁場その1の網起こしを断念。とりあえず漁場その2に向かうことに。
そして漁場その2も無理と気付いた船頭。結局漁港へ舞い戻る。燃料代と氷代の無駄。ついでに言うなら、波を被った俺らの入浴、洗濯費も無駄だよね(笑)。
一旦解散、7時半から陸仕事、と言うことになり、5時前に番屋を後にしたんだけど、船に水筒を忘れてきたことに気付いて船まで戻ると、隣の大敷網の船も戻ってきてた。
大敷網でさえ無理だったんだ、ホント船頭の判断ってさぁ、とぶつぶつ小声で文句言いながら(笑)、その大敷の船の水夫様方としばしの談笑。
数分馬鹿話していたところに無線が入った。
「伝馬船探してきてくれ」
この大敷の船は、いわゆる北側の大敷網を起している船で、まだ、南側にある大敷網を起す船たちは沖にいる。同じ組合所属の船で、無線も同じ。当然だわね。
つーことで、南側の大敷網を起す船4艘のうち、一番大きな船が牽引している伝馬船が、その牽引しているロープが切れて見当たらなくなったんだそう。
何やってんだか。こんな大荒れの日に無理繰り網起こそうとするからだよね。うちらの船頭といい、大敷の大船頭(大敷網は各船の船頭たちを統括するための大船頭と言う方が居られます。こういう場合の操業をどうするか、と言うことは大船頭が決めるそうです)といい、何考えてるんだか、全く。
数分後、
「伝馬船裏返ってる!」
と言う無線が。オイオイ、それってちょっとまずいんじゃないか?。ロープ切れていなくなった、って言うところまでは笑い話で済んだけど、大問題なんじゃない?。
「今すぐ海上保安庁と組合長のところに連絡してくれ!!」
この時点で、隣の大敷の船の水夫一同がバタバタしだす。偶然海の様子を見に来たうちらの船頭も異変に気付き、隣の船の船頭と話をしてる。
「一応連絡あるまで待機しててくれ」
隣の船頭、うちらの船頭、両方から言われた一言。
そう、その伝馬船に乗っていた水夫が一名、伝馬船が裏返った(つまりは転覆ですね)際に、海に投げ出され流されてしまったのです。
大惨事の序奏です。
一旦待機、と言うことで家には帰ってきた。大敷の船は慌てて探しに大荒れの中、出航していった。
もしかしたら知り合いかもしれない。知り合いじゃなくても大敷の人たちとは面識くらいはあるから、気が気じゃない。普段だったら7時半からなら7時まで寝るべ、くらいなもんなんだけど、寝ることなんかできない。
6時半頃、気になって漁港まで出てみた。大敷の船が帰ってきていた。いい返事が聞きたくて自転車飛ばして船まで行った。
「Fさんでした。え?ああ、うつ伏せで浮かんでたって、心配停止状態で」
Fさん。俺がガソリンスタンド店員時代からの知り合いで、消防団でも一緒。大酒飲みってのがたまにきずだったけど、ものすごく優しい先輩だった。
心からご冥福をお祈りいたします。
つーことで、7時半から始まった陸仕事、漁場その1の登り角戸網の修繕中も雰囲気が悪い。
お昼前に終わって、ニュースで観た、と言う知り合いが多数連絡してきてて、そういうのもものすごくブルーにさせた。
と、言うことで、なんか何処にも行く気にならず、結局PC触ったり、昼寝したり。
夕方になって慌てて子供達を迎えに行き、普段と変わらぬ一日。ただ、気分だけはどうしてもブルーなまま。
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直接リンクすると、個人名なども分かってしまうので、伏字にして新聞記事を紹介させていただきます。
富山・氷見沖でえい航中の漁船転覆、漁師が死亡
16日午前4時50分ごろ、富山県氷見市KのK漁港から約1キロ沖合で、N定置漁業組合所属の定置網漁船「第三M丸」(1・1トン)が転覆し、同市T、漁師F.Hさん(42)が海に投げ出された。
Fさんは近くにいた漁船に救助され、病院に運ばれたが、死亡が確認された。
氷見署によると、「第三M丸」は、同午前4時半に、「第二N丸」(乗員10人、19トン)に引航されてK漁港を出港し、2キロ沖合の定置網を引き揚げに向かっていたが、天候が悪化したため、引き返す途中で、ロープが切れたという。
(2007年10月16日11時32分 Y売新聞)
と言う風に新聞では紹介されました。
後日談として、切れたロープは一週間前に新品に交換したばかりだったとか、20年近いベテランだったとか、色々な事実が明らかにされました。
も、あくまで新聞やニュースで報道されたことは事実ではあるが、それが忠実である、と言うことは当事者達にしか解り得ません。
今回も色々あったはずです。でないと、こんな事故が起こった、と簡単に済ませる訳にはいかないと思うのです。本当に最悪なことが重なっただけでしょうけど、本当にありえない。
絶対に報道できないことも多々あったのではないでしょうか。俺の想像でしかありませんけどね。
一部の方々にはご心配をお掛けしました。おかげさまで、俺は元気ですよ~。
が、うちらの船では起こり得ない条件が重なっての事故です。確かに一枚下は地獄、と言う所で仕事していますから、絶対に起こらないとは言い切れませんが。
これからも、海難事故には気をつけて仕事していきますので、どうぞ生暖かく見守ってくださいませ。
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